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ここが素晴らしくてここが惜しい:スタートレック BEYOND(ネタバレ)


2009年の「スタートレック」(以下ST11)に始まり、「スタートレック・イントゥ・ダークネス」(以下ST12)と続き、これ、「スタートレック BEYOND」(以下ST13)と来たリブート版スタートレック。

この映画で興味深く思うのは、「ST11・12の方が面白い」派と、「ST13の方が面白い」派に分かれていて、「どちらも同じぐらい良い」派の意見があまり見られないということだ。これはST11・12から監督が代わったということもあるだろうし、そこから起因して映画の目指す方向性がだいぶ代わったということもあるのかもしれない。

というわけで、「スタートレック BEYOND」のどこが素晴らしくてどこが惜しかったのか、ST11・ST12とも比べながら考えていきたい。

以下ネタバレを含む

素晴らしいところ

・社会派

スターウォーズはいわば神話で、物語は基本的に光と闇の戦いと言ってもいい。それに対し、スタートレックは昔から社会的なメッセージを帯びることが多かった。主要キャラクターも人種や性別の多様性を重んじる形で配されてきたし、しばしばかなり重いメッセージを伴うエピソードも作られてきた。今回も強い社会的メッセージが感じられる。

今回の敵のクラールはトランプ米大統領だという指摘がある。かつての敵国との和平を頑なに認めようとせず、他者を排除しようとする。一方ウフーラは融和と結束がエンタープライズの強さだと言う。この対立構図は映画第6作でも見られるが、実際にトランプが大統領となった今、クラールは登場すべくして登場した敵キャラとも言えるのかもしれない。

さらにヨークタウン入港時にはヒカル=スールー(Mr.カトー)の男性の配偶者が彼を出迎える。これはオリジナル版で同役を演じたジョージ=タケイが、男性のパートナーと同性婚している事実を反映した演出だろう。多様性を重んじるメッセージがこんなところにも見える。

・巨大宇宙都市ヨークタウンの造形

今回の舞台は主に2つ。宇宙に浮かぶ巨大都市ヨークタウンと未知の惑星アルタミットだ。アルタミットの造形は正直特筆すべきものがないのだが、ヨークタウンの造形はその精密さとスケールの大きさに圧倒される。エンタープライズ出発シーンのカメラワークも非常に良い。

・キャラの掘り下げ、特にマッコイ(ボーンズ)

3作目にして主要キャラの掘り下げが一気に進んだなという印象。父親の年齢を越える誕生日(それも父親の命日と同じ日)を迎えようとするカーク。未来から来た自分自身(老スポック)の死を聞かされ、バルカン人としての自分の役割を考え直すスポック。そしてマッコイ。リブートシリーズを通して良いキャラクターなのだけど、今回は際立って素晴らしかった。カークもスポックも最初に気持ちを吐露する相手は彼だったりする。

残念ながら今作が遺作となってしまったが、アントン=イェルチン演じるチェコフもしっかり活躍していた。いつも通りの軽いキャラクターながら、優しくて熱い、新しい一面を見せたスコッティも光っていた。主要キャラクターすべてに見せ場が用意されていたのは、ワイルドスピードで「チーム」を描いてきた経験を持つジャスティン=リン監督ならではだろう。

スポックがひとりで思案にふけるシーンのカメラワークも印象的だった。超巨大都市ヨークタウンの中なのに、あえて窓の外はほとんど真っ暗になっている。その中にひとりたたずむスポック。今までのシリーズにはあまり見られなかったタイプの演出だ。

最後はカークもスポックも再び宇宙に戻ることをを決意する。スポックが老スポックの遺品から1枚の写真を見つけたシーンは、旧作からのファンならかなりグッと来るものがある。

・ワープバブル

ワープ演出はスタートレックのシリーズを通じていろいろ変化してきたが、今作のワープはスタートレック史上最も美しいワープだ。一番上の予告編の0:24あたりから登場する。

惜しいところ

・SF的設定の詰めの甘さ

映画の中で語られるクラールの正体は、100年前の艦隊士官であることぐらいで、あとはアルタミット星のテクノロジーで寿命が伸びたとちょろっと語られるぐらい。クラールは膨大な数の仲間を集めており、超多数の戦闘機による複雑な編隊で攻撃を行うが、これらの仲間と戦闘機はいったいどこから来たのか映画の中では一切語られない。

さらにこの大編隊は「妨害電波」に晒されるだけでいとも簡単に爆発炎上四散する。この性質のおかげでBeastie Boysの「Sabotage」をガンガン鳴らしながらザコ敵を一掃するという楽しいシーンがあるわけだが、SF映画としてはそんなアホなと突っ込まざるをえない。

「素晴らしいところ」で取り上げたヨークタウンも逆に規模が大きすぎて、22世紀の都市としてはあまり現実感を感じられないものになってしまった。エンタープライズはパイプむき出しの武骨な工場で組み立てられたというのに。

こういった映像的面白さを優先してSF的設定の緻密さを犠牲にすると、映画全体としては見ごたえのあるものに仕上がる一方、一部硬派なSFファンの不評を買うことにもなる。ST11・12もSF的設定としては結構ギリギリのラインを攻めていたが、ST13はそのギリギリのラインを踏み越えてしまったように思える。

・敵のキャラクター

まず敵のキャラクター、クラールはカーデシア人ナーン人を合わせたようなデザイン。手のひらから人間の生命力を吸収できる。吸収すると微妙に顔が変わる。本作の舞台アルタミット星を実力で支配する暴君で、従わないやつは皆殺し。で、そんな彼が狙うのは古代のスーパー殺人兵器で、それを使ってヨークタウンを滅ぼしてやること。

造形・能力・性格・目標いずれもちょっと古くさいというか、懐かしいというか、20世紀的

しかも彼はもともと地球人だったのが未知のテクノロジーによって人間ならざるものになったわけだが、その設定もあまり活かされていない。「結束など弱さでしかない」とか言いながら、普通に信頼のおける右腕がいる。お前も結束して戦ってんじゃん!

あと最後の戦い、カークが油断しすぎて肉弾戦になるのも何だかね。

つまるところクラールはわかりやすい悪役でしかなく、あまり深みを感じられないキャラクターになってしまっている。自らの正義感や使命感であるとか、異形の敵を憎みつつも自ら異形の者になってしまった悲しさであるとか、もっと共感できるところを持たせた方がキャラクターに奥行きが出たのではないかと思う。やられてよかったとホッとする反面、どこか死んでしまって悲しいと思える。そこまで描ききることができれば忘れられない悪役になるだろう。

逆に人間的な理解を一切排除した、完全に共感不能な悪役にしてもいいかもしれない。ST8のボーグ=クイーンとか。(このタイプの究極系がダークナイトのジョーカー)

・オープニング

ST11・ST12のオープニングは、SF映画史上に残ると言ってもいい、すばらしいものだった。特にST12のオープニング。10分ほどの中に凝縮されたSF的エッセンス:目を射る真っ赤な森、異形の住人、巨大な火山、海から浮かび上がる宇宙船。テンポの良い展開と洒落の利いたオチ。完璧過ぎる。

それに対してST13のオープニングは、はっきり言ってしょぼい。ビジュアル的にも5段ぐらい見劣りするし、ウケ狙いなのがダダ滑りしている。ST13は全体としては非常に良い映画なのだけど、そのオープニングは事故作ST5レベルの駄作

スタートレックBEYONDは、JJエイブラムスのST11・12に比べ、たしかに荒削りの面があるのは否めない。しかし圧倒的な映像美や爽快感のある戦闘シーンもあり、ST11・12ではあまり見られなかった社会的メッセージや深い人物描写もあり、映画全体への満足度はとても高い。

本作のクライマックスでは、ST11序盤のカーク少年時代で流れたものと同じ、Beastie Boysの「Sabotage」が流れる。また本作のフィネガン役、グレッグ=グランバーグはスターウォーズEP7でXウィングパイロットのテミン=ウェクスリーを演じており、実写かつマスクも特殊メイクも無しにスターウォーズとスタートレックの両方に出演した唯一の俳優となった。(なおスコッティ役のサイモン=ペッグと彼の相棒キーンザー役のディープ=ロイも、特殊メイクありで両方に出演している)

次作ST14はクエンティン=タランティーノが監督すると報じられている。今後の展開も楽しみだ。

#SF映画 #STARTREK #スタートレック #ジャスティンリン

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