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A Story of Moovment 003


我々が当たり前のように歩き回り、語り合い、生きて、子を生み、死んでいく、この街はわかっていないことの方が多い。というより、ほとんど何もわかっていない。何世代もの星読みたちが研究を続けてきたが、それほどの進展はない。おそらく私もほとんど何も進展を生み出さないだろう。だから今から語ることには多分の憶測が含まれることを予め宣言しておく。

この街が何らかの機械であることは疑いようもない。我々も様々な機械を生み出してきた。火を使うもの、ゼンマイを使うもの、電気を使うもの、さらには街の動力をわずかばかり借りて動くもの。動力を生み出し、制御し、伝達する技術は、食糧の確保と同じくもっとも重要な技術として、幼少期から様々な形で教育が行われ、また研究が進められてきた。

それでもなお、この街の動力については原理がまったくわかっていない。唯一はっきりしているのは、我々の街の中央に位置する“大歯車”が街全体の動力源であることだ。この大歯車は輪状で軸がなく、そのかわりに鈍い青色の光を放つ、”光面体”を中心に持つ。光面体は銀色に光る三交輪に囲まれており、共に一見何の支えもなく、大歯車の中央部に浮かんでいる。そして大歯車自体もまた一見何の支えもなく、光面体と大歯車をとりかこむ球体炉の中央に浮かんでいる。

「浮かんでいる」といっても、雲や雲間に浮かぶ雲虫とは大きく異なる。大歯車が軸を持たないにも関わらず、回転軸が一定であることはよく知られているが、三次元的に複雑な回転をする光面体や三交輪も、回転の中心は観測できる限り微動だにしていない。そういう意味では「浮かんでいる」というより、球体炉の中心に「固定されている」ようにも感じられる。

光面体にはもうひとつ奇妙な性質がある。それは「どんな物体も光面体に触れることができない」ということだ。もし君がかつてやんちゃな子供だったのなら、錆びた螺子や陶器の欠片などを光面体に向かってなげつけたことがあるかもしれない。子供の腕力ではそもそも光面体に届くことはないだろうが、我々星読みも、ずっと前の世代から同じようなことを行ってきた。記録によると、森喰いの狩りに使う大弓で模擬大矢を放ったことすらあるらしい。本物の大矢を使わなかったのは”万一の事態”を恐れてのことだろうが、とにかくどれほど正確に狙いを定めても、必ずその軌道は光面体を逸れる。非常に長い棒を使って光面体に触れようとした星読みもいたが、光面体に近づくにつれて棒は大きく外側に湾曲し、ついには折れてしまった。

なお、三交輪と大歯車に物体を触れさせることは可能である。少しの腕力があれば簡単に大歯車に物体をぶつけることができる。他の歯車とは異なる素材でできているらしく、光面体の光を反射するだけでなく、それ自体があわく光を放っている。数世代前の勇気ある星読みが、長く丈夫な梯子に自らを固定し、その手で大歯車に触れたこともある。彼の記録によれば、大歯車は「温かで、電気に触れたときのようなかすかなしびれを感じる」という。結局彼の勇気も大歯車の回る仕組みを明らかにするには至らず、その解明は彼の孫の孫、すなわち私の代にまで引き継がれ続けることになった。


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