sen-on

A Story of Moovment 001

“これ”がいつから歩き続けているのかは、よくわからない。ひいじいさんも知らなかった。僕が生まれてから僕達の“月”は62回“母星(ははぼし)”の周りを回り、母星は7回と半分ほど太陽の周りを回った。ひいじいさんは母星が太陽の周りを51回まわる間生きていた。月が5回ほど回る前、ひいじいさんは死んで、屋根下街のばあさんが一番長生きということになった。しゃべったことはないが、ばあさんも“これ”がいつから歩き続けているのか知らないだろう。

星読みのオヤジさんによると、“これ”は少なくとも母星が214回太陽の周りを回る間(星読みたちの言葉で言うと214“太陽年”の間)、歩き続けているそうだ。だいたい、ひいじいさんのひいじいさんのひいじいさんのひいじいさんのそのまたひいじいさん辺りに遡るらしい。それより前はまだ正確に“太陽年”を数えられなかったから、わからないのだと。ただオヤジさんは1000太陽年は下らないんじゃないかと言っている。(”1000太陽年”がどのくらいの長さかあまりピンとこないが、ひいじいさん20人分だと思えばずいぶんと長い間だ!)​

”これ”は僕達が住む街だ。ただし”街”をつくったのは僕達の先祖で、”これ”をつくったのは知らない。僕達の先祖がつくった、という人もいるけど僕はそうは思わない。街の大半は鉄の箱家でできている。真新しい箱家は様々な色で塗られ、積み重ねられ、僕達をその中に住まわせる。長い雨が降り続けると、真新しかった箱家の壁の隅には赤茶色の錆が浮き始める。僕たちはそれを塗り直して隠そうとする。でもしばらくするとまた少しずつ錆が現れ、それを塗り直し、また錆が現れ、また塗り直し、壁には”まだら”の模様ができ、その下でゆっくりと、鉄の壁は人が年老いるのと同じように、年老いていく。ボロボロになった箱家は溶かされて、新しい箱家がそれに取って代わる。そうして街は長い時間の中で少しずつ形と色合いを変えていく。

”これ”は僕達の足元で、ほんのわずかな錆を浮かせることもなく、その光沢を失うこともなく、僕達の街を背中に載せて歩き続けている。誰がつくったのかはわからない。たまに立ち止まって鉄やら何やらを掘り出す間以外、とてつもなく長い時間、歩き続けている。僕たちはその上で生きている。​


最新記事
過去の記事
記事カテゴリー
  • グレーのアイコンSoundCloudが
  • Grey Twitter Icon
  • Grey Facebook Icon
  • グレーのRSSアイコン
関連記事
先音工房のリリース(Paypalかクレジットカートで購入できます。FLAC Lossless/MP3 320kbpsでDL可能)